スーパー堤防整備のための強制撤去! 本会議最終日報告
残念ながら、議会終了後、区画整理課長から 7 月 3 日 9 時から、北小岩 1 丁目東部地区で 1 軒のお宅を区が 直接施行 ( 強制撤去をするという意味です。 ) しますと報告がありました。私たちが、どうして直接施行はするべきではないと訴えてきたか、反対討論で述べましたが、区は直接施行に向けての準備を着々と進めていたわけです。以下、反対討論を掲載します。 ( 江戸川・生活者ネットワークの HP にも掲載しています。 )
第57号議案に反対の立場で討論を行います。反対の理由は、土木費 土地区画整理費において北小岩 1 丁目東部土地区画整理事業の直接施行費用が計上されているからです。
直接施行は、土地区画整理法77条1項に規定されてはいますが、それは制度上備えられているものであり、実務上は、所有者自らが除却することが大前提です。本件の場合、スーパー堤防事業と一体的になされることから、長年にわたる仮住まい、住居の新たな建築、 2 度の移転など、 通常の区画整理に比べ、住民の心身、そして経済的負担は過大となっています。特に年金生活を送る高齢者世帯にとっては死活問題であり、生きて帰ることができないかもしれない「片道切符」になる場合もあるでしょう。
さらには、 27 年 前に制度化されながらも、その進捗は、国の見直しで大幅に縮小されてなお 2.8 %にとどまっています。スーパー堤事防業の真の必要性について、また、先の東日本大震災では、壊れないはずのスーパー堤防で沈下や液状化が起きるなど、その安全神話も含め、本事業への当該住民の不信感は消えることはありませんでした。これに対し、区からも国からも必要十分な説明はなかったと言えます。今、こうした事態を招いていることの責任は、区の政策やその進め方にあることを改めて指摘し、反対する理由を順次述べてまいります。
1点目は区の住民に対する姿勢です。私たちは、本件事業がスーパー堤防と一体である以上、これまでの区画整理とは異なることを指摘し、事業の見直しを含め、進め方への注意を喚起してきましたが、区はこれまでどおり、「どの地区でも反対があったが、最後には喜んでもらっている」ことを大きな理由に挙げ、推進の手を緩めることはありませんでした。しかし、現状はどうでしょうか? 確実に回避しなければならないはずの直接施行に予算を付けるという事態になっています。
直接施行はこの四半世紀で、東京全体でも8件しか例がありません。区においても、平成11年の一之江駅西部の事業で1件のみ、それも理由は、所有者不明のためでした。そして今回、一つの事業の中で、6軒の方々に対し、順次直接施行を行っていくこととし、多田区長の言葉を借りれば「苦しい決断」である直接施行、つまり、最悪のシナリオの実施段階に踏み込む方針です。
その一方で、区は、最後まで住民との合意形成を図る、ともしています。反対されている住民の方々も、話し合いや建物補償に応じるなど、区との交渉を進めている矢先、このような予算が付けられたり、「催告書」や「建築物等除却工事施行通知」を出していては、言っていることとしていることが違い過ぎるのではないでしょうか。住民を追い込み、区の思い通りにしようと圧力をかけているならば、それもまた行政にあるまじき手法です。施行者として、住民に最も身近な行政として、今なすべきは、誠意をもって住民と向き合うことに尽きると考えます。
区は、当初予定の「平成28年5月の引き渡し」を理由に、「すでに仮移転された多くの住民のためにも工期をこれ以上遅らせられない」と言います。しかし、今、変更手続きがとられている「事業計画」の施行期間は、その終了が平成28年3月31日から、 29 年3月31日へと延長されています。そして、現状に照らしても、 4 月から行われるはずのスーパー堤防化は 遅れており、少なくとも半年程度はずれ込むことになるはずです。工期がずれたにしても、安全なまちづくりを行うのは必定であり、ことを急いての工期短縮は避けなければなりません。であるならば、もはや当初予定の「 28 年5月」にこだわる理由はありません。先に移転された方々にはこうした事情をよく説明し、それこそ納得を得るしかないのではないでしょうか。
2 点目は、事業計画変更手続きを完了していない点です。現在行われている土地区画整理事業の事業計画変更の主なポイントは、ご答弁のとおり、「設計の概要」の中の「設計の方針」にある「造成計画」について、 「区が盛り土する」としていたところ、「高規格堤防整備事業との共同事業」へと変更することです。しかし、こうした変更がなされるのは来年になってからですから、変更が決定していない現時点では、盛り土工事の事業主体は法的には江戸川区以外にありえません。昨年5月に国との共同事業の基本協定を結びましたが、それは任意のものであり、法に基づく事業計画が優先するのは自明です。審査の中では「河川法に基づいて国交省が盛土工事をできる」との答弁もありましたが、河川法の何条によるかは明らかにされないままであり、総務委員からの「法的な手続きを前に直接施行する例は全国にあるのか」との問いにも、「わかりません」と答えるなど、きわめてあいまいな答弁に終始しました。「スーパー堤防は河川法、区画整理は土地区画整理法」、すべてこうした単純な理屈で済むのなら、なぜ今、土地区画整理法の「区画整理事業計画」の中に、河川法にある「高規格堤防」という文言を追記する手続きを取り、東京都知事から認可を得るというプロセスが必要なのか、説明がつきません。
国土交通省関東地方整備局が本件スーパー堤防事業の一部工事をすでに発注しているとの報道が本日なされましたが、変更前に国が盛り土を行うことは、土地区画整理法に定める事業計画を逸脱することは明らかです。
事業計画の変更手続きの中で、もうひとつ大きな問題があります。それは、土地区画整理法に定められた住民参加の手続きが置き去りにされているという点です。認可権者である東京都には、23通の意見書が出され、それが秋にも都の都市計画審議会に諮られることとなっています。すでに多くの方々が仮移転をされたあとの縦覧であったことは、区長も認められた通り、タイミングを失しています。
平成22年に縦覧された本件事業計画については884通の意見書が出されましたが、それまでの住民説明とは一転し、「盛り土は江戸川区が行う」計画になっていたため、スーパー堤防事業に関する多くの意見については、「その他の意見」に分類され事実上審査の対象にはなりませんでした。しかし、今回は、さきほども述べたとおり、まさに「高規格堤防」を事業計画に明記することが変更の重要ポイントであり、当然審査の対象です。その審査がなされる前に、すべての住宅が取り壊され、築堤工事をすすめるなど論外であり、「換地設計や盛り土の形状は変わらないから問題ない」ということで片付けることなど許されません。
3 点目は、本件事業の説明責任が果たされていない点です。本会議及び予算審査での質問に対して、「本件事業はこれまでの区画整理となんら変わらない」とのことでした。果たしてそうでしょうか? 今回は、地権者が一斉に家屋等を取り壊し、明け渡すことが求められました。これは決して区画整理の換地のためではなく、更地にした上で一斉に盛り土をするスーパー堤防事業に合わせているからに他なりません。このため、地権者には「移転通知照会」ではなく、「除却通知照会」が届けられました。また、「仮換地指定」では、従前地の「使用収益停止日」と、仮換地の「使用収益開始日」が同時に指定されるのが通常で、別に指定される場合でも、従前地での土地利用を継続しつつ、「使用収益開始日」の通知を受けて移転するのが、住民の立場からすれば当然のことです。さらに、「使用収益」が長期中断されるような特別な場合には、過去の事例に照らし、特段の配慮がなされるべきであり、まさに今回はこれにあたるケースと言えます。
本件事業の特殊性は、スーパー堤防と一体の区画整理が完了したとされる平井7丁目北部地区との比較においても見られます。ここでは、同じ事業でありながら「除却通知照会」はなされていません。公共事業改革市民会議が出した質問書に対する回答において、区は、その理由を「移転補償金の承諾書等で権利者自らが除却を行うことについて確認をする手法で手続きをすすめたから」と答えています。北小岩1丁目東部地区においても、本来、こうした丁寧な進め方をすべきでした。平井ではこのように慎重に進めていながら、なぜ本件事業では最悪の事態を目前にする状況を生んでしまったのか、区の猛省を求めるものです。
当該住民はこの事業に翻弄され、苦悩し、疲弊しています。区もまた、これまでに経験のない「苦しい決断」を強いられる状況であり、一方、制度をつくった国は本事業に関し、あくまでも受け身の立場です。多額の国費を投入する上では、東北の復興やインフラのメンテナンス、また、 東部低地帯における喫緊の治水対策である現行の堤防強化や内水対策など、 優先度の高い事業こそを進めていくことが必要ではないでしょうか。関係するいずれの立場においてもより良い状況にはなり得ていない現実を直視しなければなりません。
以上のことに基き、直接施行費が盛り込まれた補正予算案に反対するものです。議員各位のご賛同をいただきますようお願い申し上げ、討論を終わります。