江戸川区で行われたヘイトスピーチデモ

 集団的自衛権の解釈変更、武器輸出三原則を見直し、輸出容認につながる「防衛装備移転三原則」を決定するなど、現政権が大きく右に舵をとっているなか、先日、麻生元首相の「正しい歴史認識をしなければならない。ナチス政権下のドイツでは、憲法はある日気づいたらワイマール憲法がナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」という、とても正しいとはいえない歴史認識を髣髴とさせるようなできごとが江戸川区でありました。 

      ※ワイマール憲法は1949年、ボン基本法成立まで残っていました。ナチスは政敵を逮捕するなど、ワイマール憲法         を事実上空文化して権力を獲得したのであって、いつの間にか変わっていたということではありません。

 3月23日正午ごろ、西葛西駅から葛西駅までヘイトスピーチデモが行われたのです。主催者の「外国人犯罪撲滅協議会」は、江戸川区が、在日中国人2世3世が作った中国人マフィア『怒羅権(ドラゴン)』発祥の地だから計画したとブログに掲載していました。昨年1月、西川口で行われたデモの時には、ナチスドイツの落とし子を自称するこの団体に向けて妨害活動を行った他の団体と小競り合いを起こして大騒ぎになりました。デモの集合場所が、子どもたちがよく遊んでいる公園でもあり、気になったので、どんなものか見に出かけました。

 ハーケンクロイツと旭日旗を掲げた主催者は「日本も外国人に乗っ取られていいのか」とか「在日外国人に多くの特権を許していいのか」など非論理的な排外主義的な言動を大声で主張していましたが、一部若者には、こういう論調がウケるのかもしれません。しかし、道路を挟んでの反対勢力との罵り合いは、「ハゲ!」だとか「バカ」だとか「そこのおっさん」などということばが飛び交い、相手のことばの揚げ足をとっての売りことばに買いことばのケンカのようなものでした。

 ほかの外国人学校には適用している高校無償化制度が朝鮮学校にだけ適用されないのも、差別のひとつですが、国連の人種差別撤廃委員会が、日本政府が高校無償化で朝鮮学校を除外するのは人種差別に当たり、人種差別撤廃条約の「教育に関する権利の平等保障義務」に違反していると警告し、改善を勧告したという事実があるにもかかわらず、若者たちのツイッターでの意見は「私立学校なんだから」とか「反日教育をしているから」などネットで聞きかじった文言が並んでいます。

 このようなデモがあちこちで開催されるようになったり、アンネの日記が破られる事件が起きたりという動きが出てきている現状は、第二次世界大戦前の国粋主義が台頭した時代に似ているという声も聞かれます。しかし、ネット右翼と呼ばれるこのような若者たちの集団が出現してきているのも現実です。若者たちにこそ、政治に関心をもち、中途半端な知識ではなく、しっかりと自分たちのおかれている状況を考えてほしい、私たちもそのためにもっと情報発信をしていかなければならないと改めて思いました。

 西葛西を出発し、葛西駅に向けて歩き始めた20数人のデモ隊を、歩道から野次る抵抗勢力との摩擦を避けるために大勢の機動隊がぐるりと周りを取り囲んでのデモ行進、この日のために、いったいどれくらいの税金が費やされたのか、思わず考えてしまいました。集合場所のすぐ隣の公園のすべり台やブランコで遊んでいた子どもたちに何事もなかったことに一安心しました。