武道導入にあたっては、2006年教育基本法が変わり、そのなかで「日本の伝統と文化を尊重し、国と地域を愛する」ことが謳われ、2008年の新指導要領において、中学校体育については、これまで選択のひとつであった武道について「我が国固有の伝統と文化に、より一層触れることができるよう指導の在り方を改善する」と必修化が決定されました。
これまで選択で武道が行われてはいましたが、事故のデータはあってもその検証がなされないままに必修化された経緯があります。江戸川区でも、選択科目として柔道を実施してきたところはありますが、ケガは23年度で、受身による骨折とたたみの間に足の指を挟んでの骨折の2件が報告されています。しかし、22年度以前のケガについては、首から上のケガしか報告義務がなかったために、今までどのようなケガが多かったのか、どういう状況でケガをしたのかの実態を教育委員会は把握していません。
先日、私たち江戸川・生活者ネットワーク主催で、元都立墨東病院の脳神経外科医長だった藤原一枝先生の柔道事故についての学習会「武道(柔道)を中心としたスポーツ事故の現状とその防止について」を開催しました。
文科省所管の「日本スポーツ振興センター」が支払ったスポーツ事故への見舞い金のデータを調査し、2010年度までの28年間で中高生114人が柔道の部活や体育の授業で亡くなっていたことがわかっています。名古屋大学大学院の内田良准教授の調査で明らかになったもので、文科省はこのような実態を調べることもなく必修化を進めたのです。
藤原先生の話では、柔道事故で多い急性硬膜下出血は、頭を打ったことによる方が多いが、頭を打たなくても急激に揺さぶられることによって脳と頭蓋骨との間に「ずれ」が起き、血管が切れることもあるということでした。
また、セカンドインパクト症候群といって、一度頭を打って脳振盪になった後も、なんでもないからと練習を継続し、次の頭の怪我が悲惨な結果を生むことがあり、脳振盪を甘く考えないように注意されました。精神論を言って、練習を続けるのではなく、少なくとも数日は練習を休ませなければならないことを指導者は知っていなければならないとおっしゃっていました。
2004年神奈川県での中学3年生男子の外傷がないのに脳内出血を起こして重度の障がいが残ってしまった例、2009年滋賀県で起きた上級者との乱取りで亡くなった中学1年生の男子生徒の事故では、指導者はいずれも両親に「頭は打っていません」と話したということです。指導者に医学的知識があれば防げたかもしれません。
欧米では、柔道の指導者はライセンス方式で、フランスでは2年かけて医学的研修もしっかりと行われます。日本の3倍柔道人口があるフランスで、15歳以下の子どもたちの死亡事故はありません。江戸川区では、体育教師91人は有段者や経験者も含め、作法の形・実際の組み手・脳震盪など柔道で起こりうるケガの状況の講習など、全員が研修を受けましたが、夏休みなどを利用してのわずか1日の研修です。必修化されることで、柔道をする生徒は格段に増えることになるのです。
私たち生活者ネットワークは、昨年から柔道の必修化にむけて、教育委員会に、実態の把握と指導者への医学的見地からの研修が必要であることを提案してきました。しかし、区として新たな対応をするという回答は得られませんでした。未然に事故を予防するために、適切な指導監督がなされるかを、今後注視していく必要があると考えます。