遅れている日本の精神保健医療

致死率が低いことが遅れの原因

 たいへん遅れていた精神医療の分野を10年で立ち直らせることに成功したイギリスのブレア政権の政策を参考に、日本の精神保健医療を考えようという、東京生活者ネットワークの学習会に参加しました。
日本でも最近は、「うつ病」や「統合失調症」などの話題が取り上げられるようになりましたが、医療において、精神医療の分野がいちばん遅れています。精神疾患は「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」などと違って致死率がそれほど高くないと考えられているためです。WHO(世界保健機関)は、疾患の政策における重要度の指標として、致死率に加えて、障がいを負って生きる年数を加えています。この指標を用いると、精神疾患、がん、循環器疾患が三大疾患になります。イギリス政府は、この指標を重要視し施策に反映させたのです。
 ブレア政権は精神疾患の専門家の養成に力を入れる必要があることを認識し、薬に頼るのみではなく、相談事業や学校教育などで、早期に啓発することも大切なのだと、地下鉄などにポスターを貼って啓発に力を入れ、専門家の養成や当事者や家族のニーズに応じた早期介入サービス、危機対応問題解決サービスなどに1400億円もの投資をしたのです。イギリスには、伝統的に、家系ごとに地域の医者が決まっている「かかりつけ医師制度」があり、地域医療に対して責任をもつことになっています。精神疾患に関しても、地域で診ることが大前提になっていて、精神看護師、心理療法士、医師のチームでまず関わり、必要であれば、かかりつけ医師が専門医を紹介するという方法をとっています。
 今、日本でも若い人たちの精神疾患が増えています。統計的に人口密度の高い方が、り患率が高いと言われています。江戸川区でも20代の死亡率の6割は自殺です。WHOの日本の疫学調査によると、OECD加盟国のなかで、日本の若年層の自殺率はトップで、その原因は精神疾患によるものであることがわかっています。しかし、東京都についていえば、精神疾患について基礎調査すらしていません。精神疾患は、ストレスの多い現代社会において、誰にでも起こりうる病気であり、引きこもりや自殺、アルコール依存、DVなど社会的に重要な問題につながることを認識すべきなのです。
 死亡原因としていちばん高い病気であるがんについては2006年にがん対策基本法が制定され、地方自治体の責務(予防、健診などの啓発)や医療機関の整備など基本的施策、対策の推進を図っています。しかし精神医療については、昭和23年に制定された精神科医療法によって、医師の数はほかの診療科の3分の1でよく、医師の数が圧倒的に足りないのが実情です。また、重症化してからの患者への対策が政策の基本になり、精神医療が行われてきたことに問題があるのです。
 まず、予防のために健康サポートセンターや学校での早期啓発、次に、もし病気になってしまったら、重症化させないための早期支援、そして再発しないようにケアをする、日本では、まだまだこのような体制はできていませんが、周りが偏見をもたず、きちんと理解するために、正しい知識の普及につとめることと専門的知識をもつ人材を育成するべきだと考えさせられました。